鎌槍兵法初心百首歌 全(要検討)

鎌槍兵法初心百首歌 全(満田家所蔵)

1 文の道をよろひて武をハかふとにし心を別に平生にもて

文武は車の輪の如しといへり。片輪にては道に達せず。内に文を修め、外に武を備へて甲胃を着たるが如く心を別に持つべしとなり。萬物都て理を窮されば心剛の成就しがたし。少しも疑惑有ときは臆病出べきなり。

2 武士の正しき人の上ならハ教へてもよし鎌の道すし

身の上の正直律儀なる人柄を見定て当流の習ひを教ゆべしとなり。不直邪曲の者には教ゆべからず。
 

3 大将ハ心をてらしかけ引の千変万化身をハはけませ

武藝は単騎の者の勤とのみ思ふべからず。大将はことに伎(術)を学び理否を会得をせざれば、心明らかならず。萬卒の情にくらくては進退の下知行れず。身を修めざれば天下も治らざるが如し。

4 君のため思ふにつけて朝夕に心にかけよや鎌の兵法

鎌鎗の教へは天理に随ひ正直を修行の本とする事なれば、忠信の人は手事も心理もに帰して會得なり易かるべし。

5 タレにたも初心のものをわらふなよ習はぬ先の我身也へし

人をあなどり笑ふ事毫釐も有べからず。習はぬ先は我も同じく初心なり。

6 面をはたゝ何となく程拍子風にしたかふ青柳の糸

面には遠山の月を望が如しといへり。顔は心の華を顕すものなれば、たゞ何となく中正なる心の花を顕はし悦眼第一なるべし。

7 伏起しかすき打はりからふにも格に背て手間延すな

手間は我身のたか斗りを以三尺に持拳の伏を起しか(つ)ぎ揚打拍圍ひ等にも手間少しも廣挾なきを可也とすべしと也。

8 肩臂をはるのみならす浮沈ミ表に見やるのりたてハあし

かたひぢより顔かたちに至る迄のりたてば角有て悪し。萬のさま圓形になるを上手とす。一圓相に成は修行成就の容躰なり。角は切れ目なり。角なきは圓相也。

9 いやなるは顔振りきミコブシ折れ足腰かゞミこはき槍立

此百曲は天埋の正直にそむけり。天然自然の道にかなへば自から圓相に成身のかねの天然を考知るべし。 

10 無器用に百曲あるも人々の稽古によりて鎗になるへし

孟子性は善なりとのたまへり、たとへ無器用なりとも信実を以て修行し正直を本意とせば百曲も次第に直り本然の圓相となるべし。

11 表をは仕合と思ひ仕合をは表と思ひ常にたしなめ 

元祖覚禅房法印の門人中村市右衛門か歌にも、かつことは表のうちに有るものを心つくしに奥ならねそといへり。表の形形は上手同志の仕合を後世の規矩に残をく事なれば表は上手の仕合也。故に仕合表のかたの如くならぬは初心の下手ゆへなり。能々上手の志を考へ察すべし。

12 通ひ来てならふ心もあたならハ教有ともむなしかるらん

日々にかよい来るともあだなる心ならば心上手の教もむなし。たゞ信實を本として執心堅固の修行こそ専要なるべし。

13 度毎に情に入つゝなおしをハ備れと思ひて又も忘るな

一日の学は千金にかへかたしといへり。又たとへ金銭を山に積とも買求る事なるまじきは一日の学なり。怠るまじきを能々思ふべし。

14 御る心なき相弟子の中こそハ龍に雲とや人も見るらん

相手なくては手練のなりかたき道ゆへ相弟子の善を得たるは龍の雲を得るにひとしと也。

15 諸流をはとはふそしりそあしと見し難波の浦のよしもとそあれ

他流の事を容易にそしるべからず。長短の道具又遠近の間相真艸の位調子拍子の趣によつて千変萬化に遣ふ事あれば初心にては見極めかたき所の意味深長成物なり。

16 丸觜もまた働のつまされハよこしま鑓よわれ人のあた

丸觜は仕合の手引なれども形を傅受するまゝにて意味をしらねは仕合の用に達がたし。心の位を覚へ序破急の調子拍子を知り遠近の間相を知り備らねば我人のあだごと成べし。 

17 引立る上手の鎗を頼へし紅葉の上の露ハくれない 

我より目上の鎗の相手となれば紅葉の上の露にひとしくくれないにもうつり行べしとなり。

18 折にふれ所によりて長道具せまき場にてハ時の見合

鎗のみを修行しては狭き場にて用にたちがたかるべしと初心は思ふ物なり。惣じて古法は長短の一味とて鎗術の修行を積、其位に至らでは知りがたし。修行して知るべし。

18 折にふれ所によりて長道具せまき場にてハ時の見合

鎗のみを修行しては狭き場にて用にたちがたかるべしと初心は思ふ物なり。惣じて古法は長短の一味とて鎗術の修行を積、其位に至らでは知りがたし。修行して知るべし。

19 かち気なる鎗のくらミは明やらてふミまよひたる千鳥足哉

りは惣して勝負に勝気なるは大事欠損負るなり。いまた跡の来らぬ内往んとするゆへふみまよひたる千鳥足になりて心のくらやみを出がたしは

20 乱らかしむすほれ来る鎗ならハ心のまなこ見極ていれ

敵より散らし乱らかして来るか又はもたれむすほれて来る鎗には心眼を見ひらきて敵の鎗に眼を付べからず。いよいよ敵のしんぼうを見よ。しんぼうは顔と挙なり。

21 仕合して表の鎗を捨置は根をほしからす植木なるへし

仕合のみを修行ぞと思ひて教かたの表の道理を極めざれば、百年修行してもえきなし。たゞ表の真艸の理をよく會得せよ。真艸の理を窮むれば遠近を見分けて遅速の節を知り疑ひはれて心正しくなる也。然るときは表の真艸形は勝負の根本なり。其根本をはづれば枯木となるにたとへなり。

22 鎌ならふ心のあらハ身を直にみかきてきたへ二六時中に

此道に入修行せんと思ふ人は二六時中に心身の霊をいましむる事第一なり。心まつ直からざればかたちも(な)からず。かたち直からざれば仕方の負出来る故争か本道に至らん。

23 器用にて心のたけき人あらハ見るもすなはち稽古なるへし

器用とは其器に当りて用ゆべき人也。たけきとは武道に備りたる人なり。ケ様の人は見るも稽古なりといへり。求めて近付べし。尤こゝろすなほ成はかたち器用なり。かたち器用なれば心もたけきなり。猛マウの字をたけしとよむゆへ猛なるをのみたけしと思ふは誤なり。南方の強は君子の居る所なれば工夫すべし

24 きれハ太刀なけハ長刀突ハ鎗徳の多きは十文字鎌

鎌鎗には十字萬字の備へともに有りて心中に求めざる必勝の理あり。然れ共かまへの規矩鱗にひづみなし。進退の節に中り時中の位に至らざれば其徳なかるべし

25 心ろ身にそはて働く十文字勝にはなれてあやのなきもの 

コトワザに身太刀を切ともいへり、太刀槍に身をそへて一拍子に進退せざれば道具と五躰と替はなれなれきれぎれになりてアヤチなし。能々心得べし。